退職前に知っておきたい健康保険の選び方
サポート会員(FP)の稲葉由美子です。
コロナ禍で失業率が上がっています。女性は、パートや派遣社員など非正規雇用が多いことが影響しており、2020年7月の完全失業率は2.7%で2020年3月の2.2%から0.5%上昇し、就業者数は4か月間で約41万人減少しています(出所:総務省の労働力調査より)。
私はリーマンショック直前に退職し、完全失業率が悪化した5.5%のときに就職活動をして不採用ばかりの苦い経験をしました。そのとき救われたのは「社会保障」の知識です。そこで企業の人事、社労士事務所などで約20年間勤務した視点から、お役に立つ情報をお届けします。
まず退職が決まり在職中に考えておきたいのが「健康保険」。退職日の翌日に再就職するならよいのですが、健康保険は空白があってはならないため次の3つから選ぶことになります。
(1)国民健康保険に加入する
(2)任意継続被保険者になる
(3)配偶者の健康保険の被扶養者になる
では、ひとつずつ、以下で説明します。
(1)国民健康保険に加入する
国民健康保険は、住んでいる地域の自治体が保険者として運営しており、自営業者、退職者、無職の方などが加入する健康保険です。保険料は世帯ごとに計算され、40歳以上の方は介護保険料も一緒に徴収されます。計算方法は、加入者全員にかかる「均等割額」、前年度の所得から算出する「所得割額」を求めて算出します。
たとえば正社員で前年度(1月~12月)に継続して1年間勤務していたなら、その1年間の所得を基に保険料が計算されますので注意が必要です。これまで給料天引きされていた保険料は1/2を会社が負担してくれていましたので、全額自己負担となる国民健康保険料は、想定外の保険料と感じるかもしれません(新卒で入社した会社を退職したとき、納付書を見て愕然としました)。
できれば退職前に保険料の概算を確認しておくことをおすすめします。方法は2つあります。まずお住まいの自治体のホームページで試算表がある場合は、ぜひ活用しましょう。もし試算表がなければ、自治体の国民健康保険の窓口へ行くことにより概算を確認することができます。その際、事前に電話で必要な持ち物(運転免許証、マイナンバーカードなど)を確認しておきましょう。
また前年度の総所得金額などが一定基準以下の場合は、健康保険料の均等割額が軽減されることがあります。ほかに離職した理由が倒産、解雇、雇い止めなどの場合は、健康保険料が7割軽減される可能性があります。そのためには退職後にハローワークで手続きを行うことが必要です。詳細は、お住まいの健康保険の窓口で確認してください。
(2)任意継続被保険者になる
任意継続被保険者は、本人の希望により届け出をすることで継続して被保険者になることができます。ただし加入するためには決められたルールがあります。
①退職日の翌日から20日以内に申請する
②継続して2か月以上の被保険者期間がある
③保険料は退職時の2倍になる(在職中は会社と折半、退職後は全額自己負担)
④加入期間は最長2年
⑤納付期限までに納付しなければ資格を喪失する
注意点として、新たに傷病手当金、出産手当金を受けることはできません(退職日時点で、傷病手当金、出産手当金を受けている、または条件に該当する場合を除く)。こちらも国民健康保険と同じく健康保険料を事前に調べておくとよいでしょう。
(3)配偶者の健康保険の被扶養者になる
配偶者の健康保険の扶養に入るケースがあります。とはいえ退職すれば必ず被扶養者になれるものではなく「年間収入130万円未満で配偶者の年間収入の1/2未満」など生計維持のための基準があり、要件が厳しいのが現状です。必要書類をすべて揃えて申請しても認定されないことが散見されます。
年間収入とは、将来にわたる年間の見込額のことです。また収入に含まれるものは、給与収入(アルバイトなど)、傷病手当金、出産手当金、公的年金のほか、雇用保険の失業給付等(※1)が該当します。あらかじめ配偶者が加入している健康保険のホームページで加入要件を確認したほうが賢明です。
※1協会けんぽの場合、基本手当の日額が3,612円以上は扶養削除
実際には、(1)と(2)で悩むことが多いようです。よって在職中に両者の健康保険料を調べて比較することをおすすめします。なお(1)と(2)は保険料を納付する必要がありますが、(3)は保険料が免除になります。いずれかの加入手続きを進めた後に撤回することは困難のため、慎重に選びましょう。