生活保護世帯でも大学に進学できる?

Q.【ご相談内容】 母子家庭で生活保護を受けながら暮らしている高校2年生です。大学に進学したいと思っていますが、奨学金を受けながら進学することはできますか?

【情報】 相談者(A子さん)は、都立高校に通う高校2年生の女子。小学生の時に両親が離婚し、現在は母と弟との3人で暮らしている。母は飲食店でのパート勤務。実父からの養育費は受け取っていない。

条件を満たせば、大学に進学することができます

数年前までは、生活保護世帯の子どもの場合「18歳で高校を卒業したら進学はせず、働いて収入を得ましょう」という考え方が一般的でしたが、2018年「改正生活保護法」が成立したことにより、生活保護世帯の子どもも進学しやすくなりました。生活保護世帯の子どもの大学等への進学率は、全世帯と比較すると低くなっていることから、この改正には、貧困の連鎖を断ち切り、子どもたちが自立して生きていけるように支援するという目的があります。


法改正に伴って、大学や専門学校への進学を支援するための施策として2018年度から「進学準備給付金」制度も始まりました。自宅から学校に通う学生には一時金として「10万円」、進学するために自宅から転居して進学する学生には「30万円」が支給されます。

ただ、大学に進学する場合、A子さんは現在の生活保護の対象からはずれなければなりません。今までと変わらず、家族と一緒に同じ家に住み続けることはできますが、世帯は別という扱いになります。これを「世帯分離」といいます。かつては、世帯分離した場合、家賃の支援にあたる「住宅扶助」の減額がありましたが、2018年より、大学などに進学するために世帯分離した場合でも、住宅扶助の額は減額されなくなりました。

世帯分離することで何が変わるの?

  • 家族が受け取ることができる生活保護費が少なくなる
    今までは、Aさんを含む3人が生活保護の対象でしたが、保護の対象が母親と弟の2人になるため、世帯として受給できる生活保護費が少なくなります。
  • 医療費扶助等が受けられなくなる
    Aさんは生活保護の対象からはずれるため、これまで受けていた医療費扶助などは受けられなくなります。Aさん自身が国民健康保険に加入し、国民健康保険料を支払わなければなりません。医療費がかかった場合は自己負担分を自分で支払うことになります。
  • 生活費や学費は自分で用意する必要がある

奨学金制度を利用する、アルバイトで収入を得るなどして、Aさん自身にかかるお金は自分自身でやりくりします。

20歳になったら、国民年金に加入する義務が発生します。ただし、学生の場合、本人の所得が一定以下の場合は「学生納付特例制度」を利用できます。特例制度を申請することで在学中の保険料は猶予されます。

20歳からの年金の基礎知識はこちらのコラムをご参照ください。
「20歳からの年金基礎知識 その1」
「20歳からの年金基礎知識 その2」

高等教育の修学支援制度

経済的に厳しい家庭を支援するために2020年4月から始まった制度です。

具体的には①高等教育の無償化(授業料等減免制度)が始まり、日本学生支援機構の奨学金の1つである返済義務のない②給付型奨学金が拡充されました。
対象は「住民税非課税世帯、及び、それに準ず世帯の学生」となっており、「生活保護世帯」も対象となります。条件を満たせば、大学や専門学校の入学金や授業料の全額または大部分が免除になり、加えて、奨学金が給付されます。

①授業料等減免の上限額

生活保護家庭でも大学に進学できる
出典:文部科学省サイト

②給付型奨学金の給付額 (生活保護世帯 /  月額)

出典:文部科学省サイト

高等教育の修学支援新制度:文部科学省 (mext.go.jp)
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/hutankeigen/index.htm

計画的な準備も必要

修学支援制度を利用しても、減免の上限額を超える部分や、給付型奨学金で賄えない生活費などは自分で準備しなければなりません。

一般的に、大学や専門学校の入学金等は入学前に納付が求められます。総合型選抜や推薦型選抜で早く進学先が決まった場合、高校3年生の秋ごろに支払いが必要になる可能性があります。 生活保護世帯等の場合、猶予が認められるケースはありますが、一旦、入学金等を支払って、免除が確定した後に返還される可能性も考えておく必要があります。

また、制度を利用できても、入学金、授業料の減免額には上限があります。不足分やその他の設備費等は自分で準備しなければなりません。

生活保護世帯の場合、原則生活保護費の他に収入があった場合は、保護費から差し引かれますが、入学金等に充当するためにアルバイトした場合は、収入認定から免除されることが認められています。

詳しくはこちらのコラムを参照してください。
「高校生です。生活保護を受けていますが、進学費用を貯めるためにアルバイトをしても良いですか?」

入学前、進学後、どのタイミングでいくらお金がかかるのかを調べた上で、計画的に準備するようにしましょう。

まとめ

生活保護世帯であっても、学びたい意思があれば大学や専門学校に進学できるようになりましたが、大学や専門学校へ入学することがゴールではありません。卒業後は、自立し、自分の力で働いて生きていかなければなりません。

「将来どんな仕事がしたいのか?」卒業後のキャリアプランや目標を持つことが大事です。そして、それを実現するために「大学や専門学校で何を学べばよいのか?」「どのような力を身に付けたいのか?」もしっかり考えて、進路選択するようにしましょう。

サポート会員 合田菜実子(FP、キャリアコンサルタント)

生活保護世帯でも大学進学できる?